暗く澱んだ空気が漂い、光が差し込まぬ空間─。
地下のとある場所─
そこで1人の男が駆け、立ち塞がる者たちを倒しながら進む。
目的は1つ─ある男を倒す事
彼は大切な人を守る為にその身に合わぬ戦鎚を振るい、雷撃を放つ。
だいぶ最奥に差し掛かった所だろうかやけに広い場所に出る。
彼は周りを見回すと目的のターゲットと思わしき男を見つける。
男は相も変わらず、ニヤリと笑い、口を開いた。
「おやおや···ずいぶん早いご到着のようで···」
「見つけたぜ···!!ロヴァス!!」
男の名─悪徳商人ロヴァスの名を叫ぶ。
ようやくして追い詰めたのだ─この機会はそうはない。
覇気迫るウィークに向け、ロヴァスが言う─。
「残念ですね···あなたはここで足止めだ─あなたの知る人によってね···」
意味深なセリフだ─
なにか仕出かす時─彼は何かしら含みを持たせる言い方をする─
彼はわざと残念そうな声を出し、”彼女”を紹介した。
その姿を見た時─ウィークは思わず目を疑った─ なぜなら─
その姿はウィークにとって大事な人であり···これ以上の無いほどの絶望─
変わり果てた時雨の姿─そのものであったのだ。
目はいつもの輝きを失い、虚ろな瞳だ─。
映るのは虚空の闇─
混じりっけのない虚無を写す
その様に彼に怒りがこもる
何よりも、仲間を利用された事にだ。
「……っ……てめぇ……!!」
相手がよりによって時雨なのもあってか怒りはかなりのものだ。
その様を奴は見下ろし、嘲る
「…あなたはいつもこうだな…守る事に特化し、他者や己を顧みない……まさに愚行……」
知ったふうに言う
確かにそうではあるがそれだけでは無い─。
彼にあるのは義賊としての”自分”
それに従い、動いている。
それによって抑えるは己の獣性─。
彼が動くのはこれ以上罪なき人や弱い者たちが犠牲になるのを見ていられない故にある。
他者から蔑まれ、いくら虐げられてきても─彼は義賊の信念で動く─。
それは即ち言い換えればそれが彼を留まらせたる所以なのだ─。
確かに魔獣は世間から見れば皆犯罪者かであるような扱いだ
実際に危害を加える者とている。
理解なんて程遠いぐらいに溝は深いのだ。
それでも─彼は望みを、他者のために戦槌を振るう─
その身に罪を受け入れ、戦うのだ。
刹那─。
間髪入れずに時雨がこちらに向かい、ナイフを振るう─。
利用されているとはいえ─感じるのは明確な殺意と敵意─。
ウィークはそれをいなし、ハンマーで応戦する─。
スピードこそはあるがあちらは一撃必殺のようなもの
対するこちらはパワーで押し返すような形
分はあちらが有利である
わかっているからこそ─戦いにくい
「ち…!」
改めて時雨が敵だとこうも苦戦するのがわかる
操られている事よりも、強さに。
こちらは戦槌な以上やや振りは遅い
対して時雨はナイフだ─確実に近づいてこられればこちらが不利だ。
とはいえ─。弾くことができても彼女は竜族─。
簡単には倒れない。
それに彼女は元はといえ暗殺者なのだ─。
ナイフと戦槌がぶつかり、金属音何度も鳴り響く─。
馬鹿力こそはあるが相手はナイフ1本だけではない─。
背後を取られればそれは即ち死を意味する─。
「この!」
次なる行動はさせないとばかりに彼女はウィークに向け、暗殺者特有の動きで翻弄していく─。
これに対抗できるのはせいぜい魔獣の力を使うか…
義賊の知識と経験を生かすしかない
相手は竜族でもあり、暗殺者…そして魔法にも少し長けている
それなら素早く”力”を爆発させるしかない─。
(…やれるだけやってやろうじゃねえの…!)
静かに帯電させながら向かっていく─
幸い相手はナイフ─武器を使う以上感電すればダメージにはなる
たった一つの望みをかけ、彼は挑む
だが─それを読んでいたのだろうか
あちらが早く動きしばらくウィークと格闘戦になると彼を吹き飛ばす、そして眼前に─獲物を突きつけた─。
「ごふっ…!」
戦闘でのダメージもあってかウィークは疲弊し、血を吐く
そして…片膝をついた
「わかりましたか?あなたでは勝てない…裏の王に逆らえばどうなるか…身をもって知っただろう…」
高みからロヴァスがそう言いながら嘲る
相手が時雨なのをわかってこちらが不利になるようにしむけたのだ─。
あまりの痛さにウィークは視界が歪む─。
だがそれでも、心は折れない
時雨が動いた瞬間─。彼は早く動く─。
素手でナイフの刃をつかみ、少々痛々しいけれど電気で反撃したのだ。
突然の事で時雨はよろめく─。
これにはロヴァスも驚いた様子で見ている。
「はぁ…はぁ…」
「さすがですね…くく…」
かなりボロボロなのを見て、見下す
こちらが疲弊しているのをわかっているからこその発言だ
痛みと体に駆け巡る怒りでどうにかなってしまいそうになるがそれでも立つ─。
立てているのは利用した事の怒りと散々弱者を弄んで来たことに対してだ。
「てめぇ…人をなんだと思ってやがる!」
「人?そんなの私にとっては”道具”でしかありませんよ…あなた方を見ると反吐が出る……何が対話だ何が手を取り合うだ…」
そんな彼が紡いだ言葉は人を否定する言葉
人を利用し、搾取する商人の言葉である。
確かに一理はあるかもしれない
ロヴァスでなくともこうして
弱い人たちは出続け、それを利用する人達のやり方は構築されているのだから。
それでもなお、彼は諦めない
わかっているが故に足掻く
それが彼にできる運命への反逆だ
意地だけで立つのもやっとであろうに彼は眼前の男に向け、挑もうとして、目の前が暗くなった。
そう…ここぞと言う時に…彼は力つき、倒れてしまったのだ。
その際に聞こえたのは3人ほどの言葉
「後は任せなさい」
その声の主は本来ならここにいるのはあまり無いはずの存在
フェンとその親友達であったのだ。
薄れゆく意識に見えたその顔は静かながら怒りに満ちていた